風呂屋はどの季節が似合うか?
夏!という人も多いかもしれません。
うだるような夏の夕方、風呂屋で一風呂浴びて串かつビールでナイター…まるで呪文のように唱える方もいらっしゃるでしょう。春!という人も、秋!と言う人も、冬!という人もいるでしょう。それぞれの季節にそれぞれの銭湯の楽しみ方があると思います。冬の風呂屋の楽しみ方としてこんなのはいかがでしょう。
放射冷却でキーンと冷えた冬の夜、空には星、そしてすいこまれそうな漆黒の摩耶山。
風呂屋が呼んでいます。でもあわててはいけません。9時や10時では楽しめません。
11時前まで待ってください。できればちょっと一杯ひっかけて、体を十分あたためておきましょう。
11時ごろ、いよいよ出発です。思いきって外へ出ると…とても寒いはずです。ここで先程の「一杯ひっかけ」が効いてきます。そして出かける先は「まや温泉」がいいかと思います。灘温泉、おとめづか温泉、みるめ温泉、五毛温泉では理由があってだめなのです。
まや温泉に到着したら、結構体も冷えてきていると思います。速攻で脱いでください。体重も量ってはいけません。浴室に入ってみるといつもの指定席「めがねの望月前洗い場」が埋っていたとしても、あわてず「古川電化ストア王子店前洗い場」に席をとります。体を流したら気で体があったまらない内に露天風呂に向かいます。
「さっぶっー」体にさぶいぼ(鳥肌)が立ってからお湯にはいります。
「あっつっー」そう、熱いんです。
「熱い湯なら灘温泉の方が熱いよ」そう思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、灘温的熱さとはまた一味違うのです。あちらは「てやんでえ、串かつはカラット揚げなきゃby船越」的熱さなのですが、まや温泉の熱さは、お釈迦さんのお母さん摩耶夫人が使う産湯の暖かさといいましょうか、厳しさの中の優しさ、熱あったかい滋味ならぬ「滋温」です。肩まで浸かっていると体があたたまってきます。でもって頭部は冷え冷え、あまりぬるい露天風呂だとこうはいきませんから。
さあ、ここまでは序章。この時点で11時20分ぐらいになっていると思います。クライマックスまでまだ時間がありますのでリラックス、ローリング、ドリーム、ヘルツ、ドライサウナ、お好きな浴槽メニューをこなしてください。
11時40分
もう一度露天風呂に戻ります。ここで待つこと5分。
11時45分
爆音を上げて勢いよく落ちていた、うたせ湯が突然とまります。
「よし、そろそろだ」
しばし、静寂感を楽しんだ後、もう一度屋内浴室にもどりお好きな浴槽にお入りください。ジェットバス系がおすすめです。
11時50分
さあ、その瞬間はもうすぐです。
「ジャバジャバジャバジャバウィーン、スコーン…シャバア~……
(静寂)……………………………………………………………………
………………………………………………………………………………」
欲室内のポンプが全て停止します。
これです。これ、とっても気持ちいいのです。この静寂の瞬間、なんか体中の疲れやらいろんなものが、摩耶山にすいこまれるように出ていくのがわかります。この瞬間のために一杯ひっかけて11時まで待ったのです。そしてNHK「ゆく年くる年」に通じるこの静寂感を味わうにはやはりキーンと冷えた冬の夜に限ります。
11時53分
欲室内の主な照明が落とされます。
この2~3分のタイムラグが実にニクい。
「ポトン…チャポン」
耳をすますとかすかに聞こえる水の音。
わびさびの世界が広がります。
11時56分
後ろ髪をひかれつつも浴室を出ます。
ここで粘ってはいけません。
おばちゃんが掃除に入って来てしまいます。
「ありがと!」
速攻で着替えて外に出ましょう。
「間に合った…」
時計はちょうど0時をさしています。
外は冷えきっています。湯冷めしないうちに家に帰りましょう。
あ、靴は忘れないでください。
まや温泉シンデレラサイレント
冬の灘の銭湯の小さな楽しみ方です。
(完)
シャバダバシャバダバシャバダバシャバダバシャバダバシャバダバ
名称は:まや温泉
場所は:天城通7丁目(駐車場有)
特徴は:毎晩行なわれるシンデレラサイレントイベント
効能は:裸でわびさび、疲労回復、明日への活力
牛乳は:白バラ牛乳
シャバダバシャバダバシャバダバシャバダバシャバダバシャバダバ
(naddist011210-110「灘秘湯の旅03 まや温泉シンデレラサイレント」2001.12.10より)