震災後に変わった風景を巡る「その街のおとな」1.17までの短期企画です
よく晴れた冬の日曜日。
まだ眠い頭に響くにぶいプロペラ音とともに一機のセスナが飛来して灘上空を旋回しはじめる。と、その刹那、ピッチが不規則に揺れる女性の声。いまはほとんど遭遇することもなくなったセスナ広告だ。
「センターセンター互助センター・・
冠婚葬祭互助センター・・
結婚式は玉姫殿・・・」
ドップラー効果で最後の「玉姫殿」はオッさんの声に変わるのも不気味だった。今でも青い空を見上げるとあの不思議なアナウンス(いや、プロパガンダと言ったほうがいい)を思い出す。万人に等しく降り注ぐ天の声は日曜の平和な空に実によく似合う。今ならすぐに通報されるかもしれない。このころはまだ街にのんびりとした許容力があったのかもしれない。
「灘・・・水道筋1丁目・・
カーテンカーペットの店・・蝶屋・・・
オーダーカーテン全品2割引・・・大好評~」
カーペットの広告を空から行うという大胆な店「蝶屋」は水道筋1丁目にあった。
灘フォント界で蝶屋バタフライ体と呼ばれる明らかに異界感が漂う印象的なロゴは、震災後しばらくして店名が変わり、どこにでもあるようなパソコンフォントに変わってしまった。そして、ユーミンの『コバルトアワー』のイントロとビートルズの『Lucy in thesky with Diamnds』を同時に聞いてしまったようなトリップ感のあるプロパガンダセスナももう聞こえてこない。